コラム48:日本会議と安倍政権

2016.6.27 弁護士 宮本 康昭

1.「日本会議」というと、かつて最高裁長官を退官したばかりの例の石田和外氏が初代会長に就任し、さらに同じく元最高裁長官の三好達氏が三代目を引き継いだことで、法律実務に携わる者達には割と知られているのですが、一般には余りなじみのある名前ではありませんでした(因みに、三好達氏は2014年に会長を退きましたが、今でも日本会議の名誉会長です)。
 ところがこのところ急にその存在が際立って来ています。

2.端的な例を挙げましょう。
 第三次安倍内閣の閣僚19人の内、首相の安倍晋三氏を含めて、その84%16人が日本会議の国会議員組織である日本会議議員懇談会の会員です。公明党から出ている閣僚以外は全員といっていいくらいです。閣僚以外でも、下村博文、衛藤晟一など首相特別補佐官などの肩書きを持つ首相のブレーンはことごとく日本会議のメンバーです。
 もう少し挙げましょうか。
 電波停止でテレビ局を脅しつけている高市総務相は、日本会議議員懇談会の副会長でした。在特会との親密な関係を取沙汰されている稲田政調会長も同じ副会長で、安倍首相などよりもっと古くから日本会議とつながっています。
 安倍首相からNHK経営委員に任命された百田尚樹や長谷川三千子も日本会議のメンバーです。
 NHK会長人事にはじまる言論介入の背後に日本会議があり、これまで活動実体を巧みに偽装して来ましたが、ヘイトスピーチの在特会活動などの排外主義にも日本会議が別組織で動いています(ヘイトスピーチ規制に政権の腰が重かったのも、当然だったというところでしょう)。さらに南京大虐殺や韓国慰安婦などの歴史認識問題と、それに深く関わる歴史教科書検定と採択にも日本会議が深く関わっています。
 日本会議自身がこれらのことを含む、これまで公にされていなかったその内情を暴いた『日本会議の研究』(扶桑社)の発行差止を強く要求しているのも、日本会議の慌てぶりを示しているように思います。

3.そして憲法改正の企てです。
 安倍首相は憲法9条改正を言いつつ、緊急事態条項新設のための改正を前面に出していますが、実は日本会議はその前身の「日本を守る会」の当時から憲法改正を掲げて、その第一順位に緊急事態条項、第二に伝統的家族観への復帰、第三に自衛隊合憲化を言っているのです。そしてずい分早くから改正の実現は2016年7月に決まる、と言っていました。それは何と今度の参議院議員選挙ではありませんか。
 安倍政権は日本会議が作った戦略の方向を志向しているように見えます。

4.安倍政権は自らと同じ思想の日本会議をいろいろ利用しているように見えるけれども、実はそれどころではないのではないか。
 実は「日本会議」という新しい右翼の流れがアメリカにおける「ネオリベラル」と同じく日本の政治の流れを動かし政権を作り、動かすところに来ているのではないか。安倍が日本会議を利用しているのではなくて、この新しい右翼が安倍政権をかつぎ、安倍はそれに乗っかっている、という構図が見えて来ます。「安倍の独裁」と人はいうけど安倍はいなくなっても新しいファシズムは続く、という可能性もわれわれは視野に入れておく必要があります。
 今度の参議院選挙は3分の2を取らせない、ということとともに、この流れをせき止めることができるかどうかという岐路でもあります。

(追記)
 脱稿後に、菅野完氏が「日本会議について、全国紙を始めとするメジャーなメディアが沈黙を続ける」と書いているのを目にしました(Journalism 2016年5月号)。この事態こそ「日本会議」がねらったところではないでしょうか。この「コラム」は出そうかどうしようかと迷いましたが、この一文が私の背中を押しました。

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