コラム17:裁判員裁判が、「めざすもの」

2012.1 弁護士 杉野 公彦

 我々にとって身近な裁判所である東京地方裁判所立川支部でも、裁判員裁判が実施されて2年が経ちました。多摩地区に住む多くの方が裁判員裁判に裁判員として参加していらっしゃいます(ちなみに裁判員裁判をすることができる裁判所は立川支部を含め全国で10支部しかありません)。
裁判員裁判事件の積極受任は、ひめしゃら法律事務所が掲げる「めざすもの」(HPトップページから閲覧できます)のひとつです。複数の裁判員裁判事件を同時に受け持つ弁護士もおり、私も平成23年12月現在、1件を終え、新たに1件を受任しております。

市民の皆さんから見た裁判員裁判といえば、やはりアメリカの陪審員制度のように検察官および刑事弁護人(以下単に「弁護人」といいます。)が裁判員(陪審員)の皆さんに法廷で働きかけるパフォーマンスが印象的だと思います。
陪審員については、裁判員裁判が始まる前の弁護士である私は、受験浪人のころ読んだ『評決のとき』(ジョン・グリシャム著)を思い出します。主人公である弁護人ジェイクが人種差別著しい州での黒人による殺人・傷害事件において無罪弁論を陪審員の前で熱く展開するシーンがクライマックスですが、そんな弁護活動を日本で実施することに感慨深くなるとともに、これまで考えもしなかったような観点での主張も必要になってくるのではと感じます。

例えば、検察官・弁護人・裁判所のみで行われてきた従来の裁判において、我々は被告人の反省している心を示し、罪を軽くするための情状弁護において、「被告人が若い」「被告人に前科前歴はない」「就職先があり、更生の意欲が強い」などといった情状を主張し、裁判所から執行猶予の判決を勝ち取ることは多々あります。

しかし、裁判員裁判の法廷において弁護人が上記のような情状主張立証をすると、裁判員の皆さんには、大きな「?」をもって迎えられることがあります。確かに、被告人が若かろうと老いていようと、初めてであろうとベテランであろうと、それを持って、目の前の被告人の刑を「軽くした方が良い」という判断にはなかなか結びつかないと思います。
だからといって弁護人が上記の主張をしないことはありえませんが、どうして上記の主張をすることで被告人の刑を軽くする必要があるのか、一歩進んでそこまで説明できないと、裁判員の皆さんの理解を得ることはできないのかも知れません。

裁判員裁判は、まだまだ未完成の制度であり、我々弁護人にとっても未開拓の分野です。裁判所で使うパワーポイントの作り方や使い方、裁判員にアピールする立ち位置と視線などといった研修はわりと多く受けてきました。しかし、裁判員の皆さんに「何を評価し、どう考え、判断(判決)の基礎に据えてもらうか」といったことについて、受任した各弁護人自身が考え続けなければならない問題なのだと思います。

裁判員裁判は、「裁判をもっと身近に」「裁判への民意の反映」「裁判・司法への信頼性の向上」が導入の理由として掲げられており、これらが裁判員裁判制度のいわば「めざすもの」なのです。市民の皆さんにかなりの負担がかかることも事実ですが、実際に参加した裁判員の方からは「ためになった」「考えさせられた」との声が聞かれます。

しかし、それだけで良いのでしょうか。
言うまでもなく裁判員裁判は、通常の刑事裁判と同様に被告人の人生を左右するものです。裁判員として判決にかかわり、人一人の人生をに多大な影響を及ぼすことになります。「ためになった」「勉強になった」で処理すべきことではないはずです。
被告人がなぜこの罪を犯すことになったのか、犯行に至るまでの被告人の人生、犯行の際の被告人の思い、被告人が犯行により手に入れたもの失ったもの、現在被告人が犯罪とどのように向き合っているか、犯罪が周囲に与えた影響、被告人が被害者に対しどのように考えているか・・・、挙げていけばキリがありませんが、「人が人を裁くこととはなにか」という根源的な問題と真摯に向き合う必要があるのではないでしょうか。

「裁判をもっと身近に」「裁判への民意の反映」「裁判・司法への信頼性の向上」が裁判員裁判制度の「めざすもの」であるのなら、我々弁護人が裁判員裁判で「めざすもの」は、人が人を裁くこととはなにか、我々弁護人がなぜ被告人の人権・権利を守るのか、それを余すことなく裁判員の皆さんに伝えきることなのでしょう。

とは言ってもまさに言うは安し、行うは難しです。刑事訴訟記録の読み方一つにしても工夫が必要でしょうし、これまで以上に被告人の話に耳を傾ける必要があるでしょう。我々弁護人が裁判員裁判における「めざすもの」を実現するには、まずは弁護人自身がさらに努力・工夫、研鑽に努める必要があるのだと思います。

△このページのTOPへ

コラム一覧ページへ

冊子紹介

相談について
取扱分野一覧

離婚相続・遺言不動産、労働、交通事故、消費者被害、成年後見、中小企業・NPO法人・個人の顧問業務、法人破産、債務整理、行政事件、医療過誤、刑事事件、少年事件、犯罪被害者支援、その他

line

「取扱分野一覧」へ >>

新着情報

お知らせを追加しましたNEW
11月の定例相談日を掲載しました
お知らせを追加しましたNEW
鈴木弁護士が東大和市社協(東京)で相続・遺言について講演

 9月26日(木)、東大和市社会福祉協議会主催で「残されたご家族が困らないために」というテーマで鈴木剛弁護士が講演を行いました。多数の市民の方が参加し遺言・相続、老いじたくについて熱心に聞き入っていました。 講演をする鈴…

コラムを追加しました
学生寮について

 私は大学に通っている間ずっと学生寮に住んでいました。200人前のパエリアを寮に持ち帰る、家宅捜索に遭遇するなど様々な事件?がありましたが割愛します。どの寮も家賃が光熱費込みで月額1万円程度など非常に安く大変助かっていま…

お知らせを追加しました
10月の定例相談日を掲載しました
お知らせを追加しました
ビル名称変更のお知らせ

 ひめしゃら法律事務所が入居しているビルの名称が変更されましたので、お知らせします。なお、ビルの名称以外の住所、電話番号等は従来のとおりです。 

(新名称) 立飛ビル8号館

(旧名称) アーバス立川高松駅前ビル

お知らせを追加しました
藤原弁護士が「家庭の中の人権問題」をテーマに講演

 8月3日(土)、東京都三鷹市で「考えよう、家庭の中の人権問題」(一番身近な家庭の中での役割差別や介護、虐待、ヤングケアラー問題、孤独死など行政の対応について)をテーマに藤原真由美弁護士が講演をおこないました。この企画は…

コラムを追加しました
トラつばに夢中

 「トラつば」とは、言うまでもなくNHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」のことです。  日本初の女性弁護士の一人であり、後に裁判官となる三淵嘉子さんが主人公猪爪寅子のモデルとなっている作品。「同じ業界だし一応見ておくか」くら…

「新着情報・お知らせの履歴」へ >>

ひめしゃら法律事務所 〒190-0014 東京都立川市緑町7-1 立飛ビル8号館1F 電話番号 042-548-8675 電話受付時間は平日午前9時半から午後5時半 FAX番号 042-548-8676

HOME
選ばれる理由
所属弁護士
弁護士費用
アクセス・交通案内
コラム・活動