コラム11:模擬裁判選手権
2010.11 弁護士 岸 敦子
昨年1年間、ひめしゃらで修行をさせてもらった岸敦子と申します。現在は高知県東部の法テラス安芸法律事務所でスタッフ弁護士として勤務しています。
高知弁護士会では、今年から新しく法教育委員会というものができました。その活動の一環として、高校生の模擬裁判選手権に支援担当弁護士として参加したときのことを報告させていただきます。
ここでの模擬裁判というのは、実際の事件を基にした記録を使い、高校生が検察側と弁護側に分かれて法廷でそれぞれの主張・立証を競い、論理性、わかりやすさなどを基準に審査員(裁判官・裁判員)が点数をつけて勝敗を決める、というものです。今年8月に愛媛の松山で四国大会が開催され、各県から1校ずつが参加しました
模擬裁判は (1) 記録を読んで検察側、弁護側それぞれが自分達の側からのストーリーを考え、(2) それをわかってもらうためにどのような尋問や論告・弁論が効果的かを試行錯誤し、(3) 法廷で表現(相手校と対戦)する、という過程をたどります。支援弁護士は (1) と (2) を手伝います。(3) は見守るのみです。私は先輩弁護士を手伝っただけでしたが、高校生の度胸のよさ、本番直前での急激な成長など、いい意味で驚きの連続でした。惜しくも高知は優勝を逃しましたが、生徒さんたちの奮闘に勇気付けられました。
また、法教育について、今までより少し真面目に考えるようになりました。法教育には様々な意味、意義があるらしく、弁護士同士でも捉え方に違いがあります。司法の世界に興味を持ってもらう、論理的なものの考え方や表現の仕方を学んでもらう、社会に出たときに困らないような法的知識を身につけてもらう(労働法規、消費者教育など)、市民の司法への理解を深める、等です。
模擬裁判の準備をしているとき、私は論理的な考え方を学ぶ、生徒さんに自分の頭で考えてもらう、という意義が中心だと思っていました。しかし、本番での生徒さんたちは、純粋な負けん気から真剣に考え、取り組み、それによって模擬裁判を大いに楽しんでいるように見えました。考えてもらおう、とこちらが力みすぎる必要はなく、そのための環境と少しのヒントがあれば、生徒さんたちはいくらでも自発的に考え、行動してくれる、ということなのかもしれません。
本番を終えて数か月たった今は、司法の世界を身近なものにして興味を持ってもらう、という意義も大きかったと感じています。真剣に考え、熱意を持って取り組むことによって模擬裁判を面白いと思ってくれれば、そこから裁判、司法の世界への興味が芽生えます。そうすれば、法的な知識や論理的な思考、司法への理解を身につける方向にも自然と結びつくのではないでしょうか。楽観的にすぎるかもしれませんが、そう思ってしまうくらい、熱気に満ちた大会でした。