コラム38:相続税改正と遺言
2014.11.10 弁護士 松縄 昌幸
相続税が平成27年1月1日から改正されます。改正の最大のポイントとして、基礎控除額(課税価格の合計額がこの金額を超える場合に相続税の申告が必要となります)の引き下げが挙げられます。具体的には、現在の基礎控除額は5000万円プラス法定相続人一人につき1000万円ですが、改正後は3000万円プラス法定相続人一人につき600万円となり、40%縮小されます。そこで、例えば、法定相続人が配偶者及び子2人のケースの場合、改正前であれば基礎控除額が8000万円(5000万円+1000万円×3)であったのが、改正後は4800万円(3000万円+600万円×3)になります。そのため、従来であれば相続税がかからなかったケースでも改正後は相続税がかかることが多くなると考えられ、特に不動産をお持ちの方については、相続税がかかる可能性が大きいと考えられます。また、最高税率の引き上げ等税率構造が変わったこともあり、従来でも相続税がかかっていたケースにつき、減額の特例が拡大した部分もあるので例外はありますが、基本的には、より多額の相続税がかかることになると思われます。この相続税改正に対する関心は高く、ここ最近、相続税対策及びそれと関連して遺言についてのご相談を頂くことが多くなりました。というのも、どの相続人がどの財産を相続するかによって、減額、軽減制度の適用の有無が変わり、相続税の金額が変わってくるためです。
相続税対策の問題は別にして、遺言に関しては、作っておいた方がいいのかというお話を聞くことが度々あります。「自分にはそれほど財産がないから」と言って、遺言の作成を消極的に考えている方も多くいらっしゃいますが、そのようなお話をお聞きした場合には、遺言書は必ず作成しておいた方がいいとお答えしています。財産がそれほど多くない場合、相続人間で少ないパイを取り合う関係になり、その中でもできるだけ自分の取り分を多くして、ある程度の金額を確保しようと考える相続人もいらっしゃいます。経験上、遺産が多くない場合でも争いになることは多くあります。
確かに、遺言書を作るには手間等若干の負担が生じることは否定できませんが、それを補って余りある大きなメリットがあると思います。それは、相続税対策の他、遺言者の意思に最大限沿うかたちでの相続を実現することが可能になること、それに伴って相続人間の紛争を最大限防止できることです。
遺言書が存在しない場合には、法定相続分が基本となり、それが不満な場合には、まずは話し合いで修正できるかどうかということになります。ある相続人に障害がある等の事情で、特定の相続人に多めに財産を残してあげたいと考えるケースも多くあると思いますが、相続人にもそれぞれ様々な事情や思惑があるため、そのような方向で話が進むかはわかりません。
また、介護してもらった等特によくしてもらった場合には、その相続人の取り分を多くしてあげたいと考えることも多いでしょうし、ある相続人には既に多額の資金援助をしたため、その相続人の取り分は少なめにしたいと思うこともあるかと思います。逆に、それらのこととは関係なしに、相続にあたってはそれらの事情を考慮せず、単純に残っている財産を公平に分けて欲しいという考えもあるかと思います。介護の関係については「寄与分」、生前の資金援助の関係については「特別受益」として、法定相続分を修正する要素になり得ますが、相続人間の話し合いでは、これらの事情がどれだけ反映されるかわかりませんし(取り分が減ることになる相続人としては、面白くないことが多いでしょう)、話し合いがまとまらず最終的に裁判所に判断してもらう場面でも、証明の問題等困難な問題もあり、どのようにそれらの事情が反映されるかはわからない部分があります。
相続に関しては、相続人同士がお互いをよく知っており、それまでの事情や関係性等もよく知っているため、特定の相続人の取り分が増えることに対して他の相続人に不公平感が生じやすく、深刻な争いになることが多くあります。そのため、「争続」と表現されることもあります。相続に関する争いが終わった後には、相続人間の関係が修復できない程悪くなってしまうことも多くあります。
遺言書があれば、これらの問題点を最大限クリアーすることができます。このように、遺言の作成には、遺言者の観点からも相続人の観点からも大きなメリットがあります。今回の相続税改正を機に、遺言について考えみるのも良いのではないでしょうか。