分断の壁に
2023年10月7日に起きたパレスチナのガザ地区を実効支配する政治組織ハマスによるイスラエルへの前例のない攻撃とそれに対するイスラエルの報復攻撃による武力衝突は今なお激化しており、被害は拡大の一途をたどっています。
双方多くの民間人が犠牲になり、パレスチナのガザ地区では外部との行き来ができず逃げ場をなくした人々が多数取り残されています。
パレスチナとイスラエルとの間にはこれまで何度も衝突が起こっており、問題解決への難しさを感じずにはいられません。
イスラエルはテロリストから自国の住民を守るという名目のもとパレスチナとの間に2002年から分離壁を建設しはじめ、いまや全長700㎞以上に及んでいますが、壁の位置は国連が定めたラインよりもパレスチナ側に入ってきており領土の侵攻として更なる火種となっています。
神出鬼没のストリートアーティスト・バンクシ―は2003年、その分離壁に《Love is in the Air-愛は空中に-》を描きました。
強力な武器を使うイスラエル軍に対し、パレスチナの青年たちは投石で立ち向かった「インティファーダ(民族決起)」を背景に描かれており、石の代わりに色鮮やかな花束を投げる青年の絵を目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
バンクシ―は「この分離壁のせいで、パレスチナは世界最大の野外刑務所になった」と語っており、その後もパレスチナを訪れ、イスラエル兵に狙撃される危険を冒しながらも分離壁に9つもの作品を残しています。
たくさんの風船を持った少女が宙に浮き壁を越えていくような作品《Girl With Balloon-少女と風船-》では壁の撤去と移動の自由を求める住民の願いを反映し、だまし絵的に描かれた《Unwelcome Intervention-壁の向こう側の景色-》ではパレスチナの人々には見ることが許されない鮮やかな景色が壁の向こうに広がっていることを痛感させられます。
また、2017年には分離壁の目の前に「The Walled Off Hotel-世界一眺めの悪いホテル-」を建設しました。
どの部屋からも分離壁とイスラエル軍の監視塔を見ることができるというホテルは趣旨を通じてイスラエルに対し痛烈な批判をしています。
世界中から多くの観光客が訪れるこのホテルにはバンクシ―の作品はもちろんのこと、地域の歴史や分離壁について解説した小博物館も入っており、パレスチナ問題を考えるきっかけを与えてくれています。
昨日のニュース映像に映し出されたラファ検問所にとどまる少女は、フェンスに手をかけ封鎖されたエジプト側をじっと見つめていました。彼女が近くて遠い隣国の景色を分離壁に描かれた絵だけではなく実際に見られる日は来るのでしょうか。
まずは現状を知り関心を持ち続けること、また、暴力に訴えずとも芸術は世界中の人々に声を伝える力があるのだ、とバンクシ―は作品を通じて私たちに教え続けてくれています。