『物語 ウクライナの歴史』(黒川祐次著)を読んで
本屋で平積みになっていたので手に取りました。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて増刷されたようです。
紀元前から現代までのウクライナの地にまつわる長い歴史が新書1冊に、コンパクトにまとまっています。初版は2002年なので最新の情勢はカバーしていませんが、これまでのロシアとウクライナの関係や、ウクライナという地の持つ重要性が伝わってきて、十分に読みごたえがありました。
著者は駐ウクライナ大使を経験した方なので、時折差し込まれる現代のウクライナのお話も楽しかったです。
古い時代の話は、世界史の一部として楽しく読みました。
紀元前の時代にウクライナを支配した遊牧民のスキタイ人が作った黄金の胸飾りは、とても精密で豪華です。白黒の小さな写真であっても、息をのむ美しさでした!
中世のキエフ・ルーシ公国についてはその繁栄ぶりに驚きましたし、その後はタタール、リトアニア、オーストリア、ポーランド、ロシア(ソ連)、ドイツ、フランス…と、周辺の様々な国がウクライナを支配したり、干渉してきたり、となかなか複雑です。地面がつながっているヨーロッパにおいて、領土と自治を獲得し、守っていくことの厳しさを感じました。
そして、その時々の支配者たちに抑圧され続け、沢山の血を流し続けることになっても、ウクライナの人たちは独立を目指して戦い続けます。その長い歴史には、現在の状況にも通じるものを感じて畏敬の念を新たにしました。
また、他国の支配下にあっても、文化的にも学術的にも優れた人材を多数輩出しています。私が何となく「ソ連やロシアあたりの人」と思っていた有名な芸術家が、実はウクライナ出身だった、ということを本書で知って驚きました。
現代に近づくにつれて、最近のニュースで流れている情報とのつながりを感じるようになり、納得したり、悲しくなったり。ウクライナの将来を期待する終わり方にもまた、現在の状況を考えると切なさを覚えます。
一刻も早く、本書に描かれている豊かで美しいウクライナが戻ってくることを祈ります。