司法は国民のもの ─市民の司法参加のいま
「市民の司法」「市民による司法」を掲げて始まった司法制度改革でしたが、もう20年経ちました。
「市民による司法」には市民である弁護士が裁判官になる「弁護士任官」や、「非常勤裁判官」もふくまれ、準司法機関を市民が構成する「労働委員会」「公害調整委員会」「労働審判制度」もありますが、弁護士だけに限られるものや準司法機関は一応さておき、市民自身が司法に関わっていくしくみ5つについて、いまどんな様子なのかをチェックしてみようと思います。気がつくとこの5つはみんな司法制度改革で生まれた割と新しい制度なのですが、いずれも何かしら問題は抱えています。
そう考えると、1つの制度に、このコラム1回でもいいくらいですが、それはまた機会があったら、ということにして取りあえずザッと見てみましょう。
1.裁判員裁判制度
職業裁判官たちの誤判によって死刑を宣告された人が再審で無罪となるというケースが4件も重なったということで(それが最近の袴田さんの無罪確定で5件となりました)爆発した国民の怒りに後押しされてできた裁判員裁判制度は、重罪事件については職業裁判官だけに委せないで市民が審理・判決に加わらなければならないとするものです。
選挙人名簿から抽選で選ばれた6人の裁判員のひとりひとりが3人の裁判官と同じ立場で平等の権限をもって裁判を進めることになりました。
これは裁判に直接国民の声を反映するもので、重罪と言わず軽罪にも、刑事だけでなく民事にも広げられるべきものだと思いますが、私が改善を要すると思うのが差し当たり2つあります。
1つは裁判員候補者の辞退率が高いことで、昨年度で68.3%ありました。これは裁判員の候補者とされた人が何のために裁判員になるのかということを自覚しきれないことによることが多く、それは市民が裁判に参加して裁判に市民の声を生かすことに裁判員裁判の意義があることが、裁判員法のどこにも書かれていないとこによるところが大きい、と考えます。
裁判員法1条にそれがきちんと書きこまれる必要があります。
もう一つは、それとの関連で、裁判の審理の過程で裁判員が審理の主体として扱われず、一々は言いませんが、依然としてお客様扱いされていることです。それでいて裁判員裁判の際に必ず行われる公判前整理という事実関係と証拠の整理手続には裁判員は参加できず、だれを証人にするとか何を証拠書類にするとかの決定からも外されたままです。この構造を是非改める必要があります。
2.裁判官指名諮問制度
というと、はじめから固苦しいですが、要は裁判官の任命にあたって裁判官として適当かどうかを審査する制度で、審査をする委員会が中央に一つ、高裁所在地ごとに8つ置かれており、委員には裁判官や検察官もいますが、市民が半数以上を占めるように設計されています。これまで判事・判事補の全員について適格性の審査が行われ、委員会の決定に反する任免はまったく行われていません。「司法の危機」の時期のような、思想信条を理由とする任官拒否・再任拒否は行うことができなくなっているのです。
しかし、もともと最高裁に自分勝手な裁判官任命をやらせないように、最高裁の手足をしばるものですから、裁判所側は運用に力が入っていないのは当然で、市民の側ががんばらないといけないのですが、発足後20年も経つと、そちらの側にも疲れが見えます。個々の裁判官についての資料の集まりかたが少ない、また弁護士委員について見ると、各弁護士会の順送りで政府機関の委員推選と同じように扱われ、制度に熱意のある人が就任すると限らない、というようなことがあります。
3.裁判官の人事評価
裁判官の人事評価は、従来はやっていることさえ秘密にされていたくらいですが、評価される裁判官への開示や意見聴取をふくめて透明性がかなり確保されるようになりました。同時に重要なのは、市民がだれでもどの裁判官についても自分の評価を裁判所に出すことができるようになったことです。これは数がまとまれば、またまとまらなくても評価の質が高ければ大きな意味をもって来ます。余り知られていないために、また大声である裁判官に対する不信を唱える人がいても、それを裁判所に届ける方法を知らないために効果を発揮できないでいます。
4.検察審査会の議決
検察官の事件処理についてのチェックで、「不起訴不当」の議決は前からあったのですが「不起訴不当」の議決をすれば再捜査が義務付けられ「起訴相当」の議決があると起訴が強制され、弁護士が検察官に代わって起訴し公判廷までの活動を行うという仕組みができました。
検察審査会は制度ができて76年経ってこれまでにも評価が高く、諸制度ができてからも良くやっていると思います。
5.裁判所委員会
裁判所委員会は家庭裁判所には以前からありましたが、地方裁判所にも作られることになり、現在全国に100ケ所の裁判所委員会が設けられています。市民である委員がその裁判所の運営について意見を述べ、また委員会としての意見を取りまとめて提起し、裁判所はその意見に対してどう対処したかを委員会に委員会に報告しなければならないものとしたのです。
ただ、裁判所側の委員(多くは所長)が委員長のポストを求めたがり、現実に所長以外が委員長に就いたのはこれまで数ヶ所しかありません。それは裁判所が裁判所運営についての意見を聞く、といいながら余りあちこち自由に口をはさんでほしくないからです。そうでなくて、もっと自由に意見を出しあい、もっとフランクにその意見を聞いて貰いたいものです。