成年後見制度の見直しについて

 現在、成年後見制度に関する大幅な見直しの議論が法制審議会で行われており、2026年度までの民法などの関連法改正が目指されています。
 認知症等により判断能力が低下してしまい、ご自身では必要な契約や財産管理等ができない方をサポートする制度である成年後見制度(その前は似たような制度として禁治産、準禁治産という制度がありました)が平成12年4月1日からスタートし、24年が経ちました。
 私も成年後見人や保佐人、補助人、成年後見監督人を務めている件が10数件あり、またご本人やご親族の方から依頼を受けて申立ての代理人となることもあります。その中で成年後見制度の必要性や有効性を感じる場面はもちろん多くありますが、他方でデメリットや使いづらさを感じる面もあり、申立ての代理人になる際には、それらの点についてよくご説明してご了解いただくようにしています。

 成年後見制度については、これまでも、様々な問題点が指摘され、様々な改善が図られてきました。例えば、よくニュースになったのは使い込み、横領です。成年後見人等はご本人の財産を管理するため、場合によってはご本人の数千万円~億単位の預貯金を管理することもあり、自分のために使おうと思えば物理的には使える状況があります。そこで弁護士含め、成年後見人等が使い込んでしまう件が何件もあり、ニュースになりました。この点は監督人の選任や成年後見制度支援信託、支援預貯金の制度等、それを防ぐ方策が講じられてきました。
 また、成年後見人の任務には身上保護と財産管理がありますが、財産管理の側面が重視され過ぎているのではないかという懸念が提起され、本人の意思決定支援ということが強調されるようになりました。他には、ご本人が亡くなると成年後見人等はその瞬間自動的に地位、権限を失うことになりますが、身内がいない方等の場合、事実上成年後見人等が葬儀等死後のことまで行わざるを得ないことがあります。しかし、それができる法的な根拠に曖昧な点があったため、その点を明確にする条文が民法に盛り込まれたりしてきました。

 このように様々な改善が図られてきたところではありますが、発足以来、制度の骨格部分には変更がありませんでした。しかし、後述する高齢化の進展や単独世帯の高齢化の増加等による成年後見制度に対するニーズの増加、多様化が見込まれ成年後見制度をさらに利用しやすくする必要があるという制度を取り巻く状況や、令和4年10月に公表された国連の障害者権利委員会による総括所見等の成年後見制度に関する国内外の動向も踏まえ、成年後見制度の見直しに向けた検討を行う必要があるとされ、令和6年2月に法制審議会に諮問されました。
 そして、法制審議会の民法(成年後見等関係)部会において、令和6年4月9日に第1回会議が開催され、令和6年11月29日現在、第10回(11月12日)まで会議が開催されています(議事録や部会資料等については、法務省のホームページで確認できます)。

 高齢化社会が進む中で、認知症等により判断能力が不十分となる方も増え、成年後見制度はかなりの件数利用されています。
 65歳以上の人口は、令和4年10月1日時点では3624万人であり、 総人口(1億2495万人)に占める割合(高齢化率)は29%とされています(「高齢社会白書〔令和5年版〕」)。他方、成年後見制度を含む民法等の改正が成立した平成11年に近い平成10年10月1日時点では、2051万人であり、総人口(1億2649万人)に占める割合(高齢化率)は16.2%とされており(「高齢社会白書 〔平成11年版〕」)、高齢者人口及び総人口に占める割合は大幅に増えています。また、 65歳以上の男女それぞれの人口に一人暮らしの者が占める割合は、令和2年では男性15.0%、女性22.1%(平成11年の民法等の改正時に近い平成12年では男性8.0%、女性17.9%)であり(「高齢社会白書〔令和5年版〕」)、高齢者の一人暮らしの割合もかなり増えています。
 認知症に関しては、令和7年には約700万人、65歳以上高齢者の約5人に1人が認知症になると見込まれています(「認知症と向き合う「幸齢社会」実現会議とりまとめ」)(以上、法制審議会民法(成年後見等関係)部会第1回会議(令和6年4月9日開催)の部会資料1「民法(成年後見等関係)の見直しに当たっての検討課題」より)

 裁判所が公表している「成年後見関係事件の概況」によれば、令和5年12月末日時点における成年後見制度の利用者数は合計24万9484人とされています。
 また、令和5年における成年後見関係事件の申立件数は合計で4万0951件であり、申立人と本人との関係については、市区町村長(9607件)が最も多く全体の約23.6%を占め、次いで本人(9033人、約22.2%)、本人の子(8132人、約20.0%)の順となっています。成年後見人等と本人との関係については、配偶者、親、子、兄弟姉妹及びその他親族が成年後見人等に選任されたものが全体の約18.1%、親族以外が成年後見人等に選任されたものが全体の約81.9%となっています(以上、最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和5年1月~12月-」より)
 私が弁護士になったのが平成21年であり、弁護士になって少し経った頃から成年後見の問題に触れるようになりましたが、その頃はご本人の子や兄弟姉妹、配偶者等の親族が申立てをするケースが多く、市区町村長が申立てをする件数は今に比べてかなり少なったと思います。しかし、その後市区町村長申立てが大幅に増え、令和2年以降はずっと1位になっています(本人申立てもかなり増えています)。また、以前は成年後見人等に選任されるのは親族の方が多かったですが、平成24年には逆転して親族以外の第三者の方が多くなり、以降は親族以外の第三者の割合が増え続けています。
 これらの申立人や成年後見人等と本人との関係の大幅な変化は、親族関係が希薄になってきていることやそれに伴って前述のとおり高齢者の一人暮らしの割合が増えていると思われること等により、成年後見制度に求められる(希望される)ニーズが変化してきている部分があるためと感じられます。
 実際、成年後見制度についてもそうですが、存命中の財産管理、遺言や死後事務委任等について、一人暮らしの高齢者の方からご相談をいただく機会は増えたように感じます。そして、現行の制度は、一人暮らしであり、判断能力が低下する中で財産管理等に不安があり死亡するまで継続的に多くの面でサポートして欲しいと考えている方等にはマッチする制度だと思います。

 見直しにあたっては、現状及び課題として、①利用動機の課題(例えば、遺産分割)が解決しても、判断能力が回復しない限り利用をやめることができない、②本人の状況の変化に応じた成年後見人等の交代が実現せず、本人がそのニーズに合った保護を受けることができない等が挙げられており、①法定後見制度における開始、終了等に関するルールの在り方や②法定後見制度における成年後見人等の交代に関するルールの在り方等が主な検討テーマとされています。
 そして、この①の点は、成年後見制度を利用するにあたっての最大のハードルになっていた気がします。というのも、死亡するまでを前提にしている場合にはもちろん全く問題ないのですが、ご家族等がサポートして問題なくご本人は生活を送ることができているが、遺産分割や不動産売却等の重要な法律行為を行う必要があり、その解決のためにやむなく成年後見制度を利用するというケースも多くあります。その場合、制度を利用したいのはまさにそこの部分だけということになりますが、そうはなりません。そして、重要な法律行為を行うための成年後見人等には、親族以外の第三者(おそらく、基本的には弁護士)が選任されます。
 理論上はご本人の判断能力が回復すれば制度から抜けられますが、そのような状況は基本的にはほとんどないと思われ、少なくとも私の経験では1件もありません。そのため、実際には、ご本人が亡くなるまでずっと続きます。そうなると、基本的にはご本人が亡くなるまで、預貯金等は成年後見人等が管理をします。それまでご家族が管理してうまく回せていたとしても(それが法的にどう評価できるかは非常に微妙な問題がありますが)、以降はそれができなくなります。ご家族にとってはそれが絶対にご本人の意思に沿うという使い道であっても、成年後見人等は赤の他人でありそれまでの状況や関係性等は全く分かりませんので、ご本人の財産を守るという意識が強く働き、必要性や有効性が明確に確認できないことには支出できないと判断されることもあります(これは成年後見人等にどういう人がなるかによってかなり変わるかもしれません)。また、成年後見人等には請求すれば報酬が認められますので(専門職後見人は報酬請求をします。ご親族の方も請求できますが、しない方が多いように感じます)、何十年も報酬が費用としてかかってしまうことがあります(大した仕事をしてくれていないように見えても、です)。
 親族後見人であればそのような状況は回避できるかもしれません。ここ数年は、課題がはっきりしている場合で適切と思われる親族後見人がいる場合には、課題は専門職後見人が解決し、その後専門職後見人は辞任して親族後見人が引き継ぐという運用も比較的行われており、これができれば成年後見等は続くものの制限あるいは負担が多いと感じられる専門職後見人を以降は避けることができます。ただ、制度としてできているわけではありません。また、親族後見人が自分には分かるということで良かれと思ってやったことでも後で裁判所から問題視されたりする可能性はあります。年に1回必ず裁判所に報告が必要であり、それがきちんとできるように1円単位で収支をつけておく必要があります。慣れていない人や苦手な人には結構な事務負担にもなります。
 ですので、申立てのご依頼を受ける場合には、基本的にはご本人が亡くなるまで制度は続く、専門職後見人の場合には費用負担も続く、今までやってきたことができなくなることもある、柔軟性はかなり制限される可能性がある等の点は、必ずご説明しています。

 また、必ず申立て段階でご説明するのは、この人に成年後見人等になって欲しいという希望(候補者)があっても、その通りになるかは分からないということです。どんなに申立人の方にとってその人がなることが絶対一番ふさわしいという場合であっても、第1順位の推定相続人で反対する人がいる場合等には、候補者は選ばれないことになると思われます。そして、裁判所がこの人と決めて成年後見人等を選任するその人選については、不服申立てができません。また、候補者が選任されなさそうだからということで取下げすこともできません。

 現行の制度では、申立てにあたってはこれらの点は良く検討することが必要だと思いますが、現在の方向性でいけば、これらの点について、見直しによって変更となる部分が出てきます(変更にならない部分もあるでしょうが)。
 改正の結論がどのようなものになるのかはまだ分かりませんが、非常に重要な改正になると思いますので、その動向を注視していきたいと思います。

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