「米タン」
1 横田基地にやって来る飛行機たち
横田基地には常駐機(横田基地に所属している航空機やヘリコプターのことをいいます。)以外で、毎日のように飛んで来る種類の飛行機があります。ひとつはC-5MスーパーギャラクシーやC-17グローブマスターⅢなどの大型輸送機ですが、もうひとつはKC-46ペガサス、KC-10エクステンダーやKC-135ストラトタンカーなどの空中給油機です。
空中給油機は、文字通り、空中で戦闘機などに給油をする飛行機です。戦闘機などが給油のために飛行場や基地に着陸せずに、飛行したまま給油をするというものです。飛行したままの給油により、航続距離が伸びるほか、着陸を伴わないため、目的地までの時間短縮となります。
横田基地には、このような空中給油機が毎日のように飛来しています。では、この空中給油機に積載する航空ジェット燃料はどこから来ているのでしょうか?
2 「米タン」とは?
その正解がタイトルにある「米タン」(べいたん)にあります。
皆さんは、「米タン」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?
実はこれ、在日米軍用の航空ジェット燃料を輸送するタンク車の通称です。在日米軍用の航空ジェット燃料は鉄道で運び込まれているのです。
在日米軍用の航空ジェット燃料は、在日米軍の貯油施設である鶴見貯油施設(横浜市鶴見区)に隣接する安善駅(横浜市鶴見区安善一丁目)からやってきています。
安善駅を出た「米タン」は、鶴見線を経由して浜川崎駅(川崎市川崎区)、そこから南武線に入り、尻手駅(川崎市幸区南幸町三丁目)を過ぎ、武蔵野線への連絡線を走って新鶴見信号場(川崎市幸区鹿島田)へと走ります。
その後はほぼ地下トンネルを通る武蔵野線(武蔵野貨物線)を走行し、梶ヶ谷貨物ターミナル駅(川崎市宮前区梶ヶ谷)、府中本町駅へと向かいます。府中本町からは武蔵野線と分かれ、南武線を経由して立川駅、青梅線を経由して拝島駅へと向かっていきます。
【米タンのルート】
(Yahoo!マップの路線図を著者編集)
3 横田基地へ吸い込まれる「米タン」
拝島駅へと到着した「米タン」は、これまで進行して方向と逆方向へとスイッチバックし、いったん留置線へ入ります。再び方向を転換して、西武新宿線と平面交差をすると横田基地内へ向かう支線に入っていくのです。
この支線は、拝島駅北口ロータリーのすぐそばを通り、横田1号踏切、平和橋、横田2号踏切、横田3号踏切、横田4号踏切を通過し、最後は五日市街道と砂川街道踏切で交差し、遮断機のない横田6号踏切を通過して横田基地内へと吸い込まれていきます。
この五日市街道と交差する砂川街道踏切は、「米タン」がめったに運行しないためか、自動車で交差する場合、踏切手前で一旦停止をする必要がない踏切となっています。なお、横田6号踏切までは横田基地の敷地外なので見ることができますが、横田7号踏切は横田基地内にあるため、間近で見ることができません。
4 「米タン」との出会い
立川駅の中央線ホームで電車を待つ際に、「ガッシャン!」というとても大きな音を聴いたことがあるかもしれません。この音がしたときは貨物列車のタンク車がやってきたときのものです。ただ、立川駅で見られるタンク車には、山梨県の竜王や長野県の南松本に向かうタンク車もあるため、立川駅でタンク車を見たからと言って、それが「米タン」とは言えないかもしれません。
しかし、「米タン」を簡単に見分ける方法があります。「米タン」にはタンク車の側面に「JP-8」と書かれているので、それで見分けることが可能です。「JP-8」とは、ジェット燃料の種類を指します。
この「米タン」、現在は概ね火曜と木曜の日中に運行しているようですが、かなり不定期の運行なので、「米タン」を見つけたられたり、五日市街道を自動車で走行中に砂川街道踏切が閉まる現場に居合わせたりしたら、かなりのラッキーと言えるかもしれません。
戦争や紛争が起こったり、世界で緊張が高まったりすると、「米タン」の数が増えると言われています。横田基地内へ向かう支線は「平和橋」を渡りますが、この平和橋を「米タン」が全く渡らない日々が続くことが一番のラッキーなのかもしれません。