民事執行法等の一部改正について
1 改正法の2020年4月1日施行
近年、いわゆる相続法の改正や債権法の改正等、重要な法律の改正が相次いでいます。その中で、民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律、すなわち民事執行法等の一部を改正する法律が、本年(2020年)4月1日から施工されることになっています(一部の規定を除き)。
2 強制執行手続を行うにあたって、債務者の財産に関する情報を取得することの必要性、重要性
現在の法制度では、例えば、ある人(Aさん)が他の人(Bさん)に対して金銭支払いの権利を有しているとして請求をする場合、訴訟を提起して勝訴判決を得た上、同判決が確定した場合等に、AさんがBさんに対して金銭請求権を有していることが法律上確定します。
その場合、判決を受けてBさんが支払ってくれればAさんの権利は実現されたことになりますが、判決を受けてもBさんが支払ってくれず、そのままいつまでも支払いを受けられなかった場合、Aさんの権利は実現されません。
そこで、法は、そのような事態を防ぐため、勝訴の確定判決等に基づき、強制的に権利の実現を受けられる手続(強制執行手続)を設けていますが、その手続を申立てるにあたっては、権利者の側で、債務者の有するどのような財産をその手続の対象にするのか、特定をする必要があります。
例えば、不動産であれば、東京都○○市△△町××番地△△といった所在地に関する情報等、預金であれば、○○銀行△△支店の普通預金口座といった金融機関名や支店名の情報、給料であれば株式会社○○に対する給料債権といった勤務先の情報を特定する必要があるのです。
3 強制執行手続が困難な場合があること
しかし、個人情報の壁もあり、他人の財産に関する情報を、このように財産の種類や内容、債権であれば相手方も含めて特定する程度にまで掴むことは、決して簡単ではありません。
そして、そのような情報が掴めないとすると、どのような財産を対象にするのか特定できないことになるため、強制執行の手続を行うことができないということに繋がります。そうすると、強制的に権利の実現を受けることができないということになりますが、それでは一体何のために苦労して訴訟をして判決まで得たのか、その意味が無かったということにもなりかねません。
このように、権利の実現という観点からは、強制執行手続を行う前提として、債務者の財産に関する情報を取得できることが極めて大きな意味を持ちます。そこで、今回の民事執行法等の一部改正では、一つの柱として、債務者財産の開示制度の実効性の向上が図られています。
4 改正による債務者財産の開示制度の実効性の向上
(1)財産開示手続の見直し
債務者財産の開示制度ということでは、従来から、債務者自身にその財産を開示させる、「財産開示手続」があります。民事執行法は昭和54年に制定され、平成15年と16年に所要の改正が行われましたところ、平成15年改正の際、「財産開示手続」が創設されました。しかし、手続違背(不出頭、宣誓拒否、宣誓の上での陳述拒否、虚偽陳述)に対して刑事罰が無かったこと等もあり、実効性は不十分であり、あまり利用されませんでした。そこで、今回の改正で、同手続の見直しが行われました。
財産開示手続の見直しの内容として、一つは、申立権者の拡大が行われました。従来は、執行受諾文言付公正証書に基づいて同手続の申立てを行うことはできませんでしたが、それが可能になりました。
また、手続違背に対する罰則の見直しということで、刑事罰(6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が設けられました。
(2)債務者以外の第三者からの情報取得手続の新設
このように、財産開示手続に関する見直しが行われましたが、債務者自身の陳述により債務者財産に関する情報を取得する制度には制度的な限界があります。そこで、この間、金融機関における情報管理システムの整備がされてきたという状況の変化も受け、債務者以外の第三者からの情報取得手続が新設されました。具体的には、金融機関からの情報取得と公的機関からの情報取得が定められました。
ア 金融機関(銀行、信金、労金、信組、農協、証券会社等)から、預貯金債権や上場株式、国債等に関する情報の取得が可能になりました。
イ 公的機関からの情報取得
登記所からの情報取得と市町村、日本年金機構等からの情報取得が定められました(ただし、いずれの場合も財産開示手続を経ることが必要とされている)。
(ア)登記所から、債務者の不動産に関する情報の取得が可能になりました(但し、2020年4月1日より後に運用開始)。
(イ)市町村、日本年金機構等から、債務者の勤務先に関する情報の取得が可能になりました(但し、婚姻費用分担や養育費請求権、人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権といった一定の権利を有する者に限る)。
5 このように、今回の改正では、債務者財産の開示制度の実効性の向上という観点から、従来の制度の強化及び新たな制度の創設が行われました。これにより、理論上債務者財産に関する情報を取得しやすくなったことは間違いないと思われますが、実際にどこまで役立つかは未知数です。改正法を積極的に活用するとともに、改正法を廻る今後の動向を注視していきたいと思います。