遺言について(相続法改正に関連して)
去年(2018年)の7月に、国会で民法など(民法及び家事事件手続法の一部改正、遺言書保管法)の改正案が可決、成立し、1980年以来の、約40年ぶりの相続法の大幅見直しが決まりました。
この中で最も大きく報道されたのは「配偶者居住権」という制度の新設ですが、私が気になった改正点は、その他にもいろいろあります。その中でも、一般の方々にも直接の影響があると思われるのは、自筆証書遺言の方式緩和ので、ここでご紹介いたします。2019(平成31)年1月13日施行ですので、既に実施されています。
法務省のホームページによると、「全文の自書を要求している現行の自筆証書遺言の方式を緩和し,自筆証書遺言に添付する財産目録については自書でなくてもよいものとする。ただし,財産目録の各頁に署名押印することを要する。」というのが今回の改正です。
「全文の自書」というのは遺言書の最初から最後まで自分の手で書く、ということです。そうすることで、その人本人が自分の意思で書いたものだ、ということの証明になる、という趣旨なのだと思います。そのため、パソコンで作成したものを印刷したり、録音や録画で自分の意思を残しておいても、法律上は「遺言」とは扱われませんでした。
しかし、民法が定められた当時とは時代が変わり、財産の内容も、権利関係も複雑になり、それにしたがって、遺言に書く内容も複雑化してきました。また、本格的な高齢化社会が到来し、「終活」も盛んになる中で、遺言が残しやすい環境を整えることは社会的な要請でもあるため、今回の改正につながったと思われます。
財産目録は、不動産であれば所在地の番地や地目・面積などを、預貯金であれば金融機関名や口座番号などを正確に記載して特定する必要があるため、手書きで逐一記載するのは大変な部分です。
これについて、今回の改正では「全文自書」という厳格な方式が緩和され、財産目録に限っては自書が要求されなくなりました。財産目録だけは遺言者本人がパソコン等で作成してもよいですし、遺言者以外の人が作成することもできます。土地や建物について登記事項証明書を財産目録として添付することや、預貯金について通帳の写しを添付することもできます。
いずれの場合であっても,財産目録の各頁に署名押印する必要がありますし、「添付」する場合ですので、遺言書本文(これについては引き続き自書が必要です)と同じ紙に記載することはできません。
この改正により、自筆証書遺言の作成は以前に比べるとだいぶ楽になったと思います。とは言っても、遺言者の死亡後に家庭裁判所での検認も必要な上に、紛失や改ざんのおそれも比較的大きいと言わざるを得ません。2020(令和2)年7月10日から始まる自筆証書遺言の法務局の保管制度ではこれらの点についても配慮がされていますので、自筆証書遺言の場合は、この制度を利用していくのが良いと思います。
ただ、遺言として有効かどうか、遺言をした方の期待したような効果が発生するかどうかについては、記載の方法・内容等によっても変わってきます。その部分に関しては、やはり自筆証書遺言の場合は少し不安が残ります。自筆証書遺言を否定する気は全くありませんし、この改正により遺言を残す方が少しでも増えて欲しいと願っていますが、弁護士としてのイチオシはやはり、これまでどおり、公正証書遺言だと考えています。